夏休み、少年探偵団のメンバーと阿笠とで夏祭りに来ていた、歩美・光彦・元太・コナン・哀の五人は、
それぞれが浴衣を着て集まろうということになり、一度博士の家に集まって浴衣に着替えていた。
歩美は薄桃色の下地に金魚の柄が入った浴衣、光彦は青の下地に構わぬ柄の浴衣、元太は白の下地に黒の虎柄の浴衣、
コナンは黒色の下地に灰色の吉原つなぎ柄の浴衣、哀は藍色の下地に百合の柄が入った浴衣をそれぞれに来て、下駄をはいてお祭りに向かった。
コナンと哀がはじめて出会って半年が過ぎようとしていた……。
半年が過ぎた、哀の髪は出会った時より少し伸びていて、浴衣を着た彼女は少し髪をまとめ、きれいな桜の飾りのついた髪留めで髪をまとめていた。
哀が着替え終わったのは、先に歩美を着つけた後だったため、一番最後になってしまい、着替えた後出ていくと、歩美、光彦、元太はその哀の浴衣姿に奇麗だとほめた。
「で、あなたからは何もないのかしら?江戸川くん」
いつもと違う装いのお互いに、なんだか照れくさい気持ちになるコナン、それ以上に浴衣姿の哀の姿がいつもの彼女と違いなんだか大人びて見えてコナンは直視ができなかった。
頬を少し赤らめて、「キレイ……だよ」と哀にだけ聞こえるように伝えた。すると、哀もその言葉が想定外だったのか、思わず照れてしまい。
「そう、まぁほめ下手な工藤君にしては言えたほうよね」
「うっせぇよ」
と、コナンの反応についまたツンとした言葉を言ってしまった。
花火の打ち上げ時間に間に合うように、少年探偵団と阿笠は歩いて出かけた。
子供たちと阿笠の後ろを少し下がって歩く、コナンと哀、ふいにコナンが言葉を発する。
「その髪飾り、似合ってるな」
「これ?博士が前に買ってくれたんだけど、私、髪があんまり長くなかったから、使えなかったの、やっと髪をまとめられるくらい伸びたから、つけてみたんだけど似合ってるならよかったわ」
「あぁ、それ、俺も一緒に選んだんだよ、博士がおめーが遠慮しすぎるから何か贈り物してやりたいっていうからよ、今まで女の子らしいことできてなかったんだし、おしゃれぐらいさせてやりたいっていうからさ、一緒にな」
「あら、女心の鈍い探偵さんと博士が選んだにしては、随分センスがいいのね」
「うっせぇよ」
カランカランと下駄を鳴らして歩くこと数分、お祭りの会場にやってきた探偵団と阿笠は、花火の見える場所を確保し場所取りしている、
コナンと哀を残し、屋台に食べ物と飲み物を買いにいった。川沿いの畦道で、シートを敷き座っているとふと、
視線を横に向けて隣に座っている哀を見るコナン、小学一年生にしては、やはり大人びて見える哀は、本来の18歳の女性になって、浴衣を着ても似合うだろうなと思った。
「ところでよかったの?私たちとお祭り来てて、蘭さんとか行きたがってたんじゃ」
「あぁ、あいつはクラスの奴らと行くからってたよ、なんでも杯戸高校の和田さんから誘われて、空手部の何人かで行くんだってよ」
「へぇ、もしかして男子も一緒なんじゃない?いいのかしらガードしなくて」
「いいんだよ、ロンドンでの告白の返事してもらってないのに、ガードする権利もねぇしな」
そう、工藤新一だったコナンは、2カ月にロンドンで成り行きだったが蘭に告白したのだが、その返事はまだもらえていなかったのだ。
いままでだったら、蘭に近づく男に躍起になって阻止していたコナンだったが、蘭の返事がないのに、
自分ばかりがむきになる理由もないと思い始めていたコナンに、いままでのコナンとは思えない反応に、哀は驚く、だがそれ以上に、「彼女のこと好きなんじゃないの?」というと、
「好きだけど、工藤新一自身が好きって言われたことねぇしな、言われてもねぇ言葉に一喜一憂するのも馬鹿らしくなってよ……ってかさ、いくら幼馴染だからって2カ月告白の返事しないならお断りって思っても仕方ないと思わねぇか?」
「……それは、その人の判断一つじゃないかしら、恋なんていつでも自分の感情一つで終わらせることができるものだもの、相手を必要としないし、思ってるだけでそれは恋として成立するんだから……」
「そうだな、俺はもうあいつを好きでいることにつかれたのかもしんねぇな」
「愛とは、お互いを見つめあうことではなく、同じ方向を見つめることである」
「サン・テクジュペリか?」
「えぇ、まぁ今まではあなたたちはお互いをただ見つめあってるだけだったってことなのかしらね」
「かもな、それに言い換えるなら、あいつは俺と同じ方向を見つめてはくれないだろうさ、あいつは俺が事件に行くと、すぐ拗ねて怒り出すしな」
「そもそも根本的に彼女と合っていなかったってこと?」
「あいつとみるものが違いすぎちまったってことかもなコナンになってからさ」
「ごめんなさい、私のせいね」
そういって、しばらく沈黙が流れるが、コナンがふぅっとすこし息を吐きだし哀に向かい合いいった。
「おめーがそんな気に病むことじゃねぇよ、あれは俺の自業自得なんだからな、それにもともとわかりきっていたことなのに、
俺が蘭を好きでいたいからって目を背けていた現実なんだよ、探偵をする俺に難色示す蘭の態度に関してな、あいつが後でなんて言おうが今の時点で返事してないだけで愛想をつかすには十分だろ?」
「工藤くん」
「おめぇとなら、同じ方向を見つめられるかもな、知識もあるし、状況判断も適格だし、何より事件に遭遇した時の視点が俺と違うところに目につく、推理に関しても感がいいしな」
「あら?私、口説かれてるのかしら?だったらもっと甘い言葉がいいわね、そんな仕事仲間ほめるみたいな口説き方じゃ女は落ちちゃくれないわよ」
「……いいのか?本気にするぞ」
「あなたこそ、いいのかしら?こんなひねくれた素直じゃない女相手にして」
「おめぇなら、気を使わなくていいんだよな、話すことも別に話題を選んで話すこともしなくていいし、なんていうか、楽だよ、お前にはおべっか使わなくったって俺のそばにいてくれる気がするからさ、」
「なによそれ、やっぱり相棒として必要なだけじゃないのかしら?」
そういって、笑う哀に見とれるコナン、あぁ、彼女は笑うとこんなにもかわいいのかと、コナンは心がときめくのを感じた。ずっと自分は蘭が好きだと思っていた、
だから目の前にいる彼女がどれほど稀有な女性か気づくことができなかった。電話をし事件に関することに頼みごとをすれば文句を言いながらも手助けをしてくれる、
しかも極めて速く正確に、それだけを見れば探偵としての相棒として彼女が必要になっただけじゃないのかと言われてもおかしくない、だが、哀を失ったとしたらと仮定したとき、
自分の中に何か穴が開くような喪失感を覚えた、蘭に返事をもらえないことよりも、哀を失った時の自分がとても想像できないほどにつらかったからだ、そこでようやくコナンは気づく、
「あぁ、今わかったよ、俺お前が……好きなんだ、相棒とかそんなんじゃなくて、お前に俺のそばにずっといてほしいんだ」
「……工藤君」
「なぁ、いつになるかわからないけどさ、組織が壊滅して元の姿に戻っても、俺の隣を歩いてくれないか?灰原」
「……あなたがちゃんと蘭さんのこと、けじめをつけたらね」
「……わかったよ、面と向かってはまだ無理だけど、近いうちに必ずけじめはつけるよ」
そんな会話をしていると、屋台で買い物をした探偵団と阿笠が帰ってくる。
リンゴ飴に綿菓子、やきそばに、たこやきにイカ焼き、チョコバナナやクレープなんかも買ってきており、短時間では食べきれない量がそこにはあった。
それを食べて談笑していればあっというまに打ち上げ時間が始まり、夜空に奇麗な花火が打ちあがっていく、川にも夜空の花火が映り込み、これぞ夏の風物詩の一つという光景がそこには広がっていた。
少年探偵団は花火に夢中で、哀もこんな風に花火を見ることはなかったため、思わず見入ってしまった。コナンも最初は花火を見ていたがふと隣の哀に視線を移すと、
花火の光にあわせて映し出される哀の横顔をみると改めてきれいだなと思った、だが、それと同時にはかなさも感じてしまい、おもわず哀の左手に自分の右手を重ねた。
手を握られ、横を向くと、少し赤くなったコナンの横顔がそこにあり、なんだか自分も恥ずかしくなった。
いつの間にこんなに彼のことを見ていると心臓の鼓動が早くなっていたのだろうか……、コナンの心臓の鼓動の速さが自分にも移ったように、
自分の心臓も早鐘のように打っているように感じる、ただ手をつなぐことがこんなにも緊張することだとは思わなかった。
好きと自覚してしまったからか、こんなにもうれしいのに、恥ずかしくて手にかいたかもしれない汗の心配までしてしまうような甘酸っぱい感情が自分の中に起こっていることに、
戸惑いと面映ゆい気持ちが入り混じてしまい、コナンも哀も花火を見終わるまで終始顔が赤かった。
そして、探偵事務所に帰宅したコナンは改めて思った。
あぁ、こんな風に女性を思い出してこんなに心が満たされるのはいつ以来だろうと、最近は蘭を思い出しても苦しく苦い感情しか浮かんでこなかったのに、
哀を思うとこんなにも自分の心が満たされていくなんて現金な人間だろうか、だが、二カ月間一度もそれらしい態度を示さなかった蘭をこれからも好きでいる自信はなくなってしまった。
なぜなら灰原哀に向けた感情が恋心だと自覚してしまったからだった。
そして、翌日のうちに蘭に電話をし、告白の返事がないのは自分に対して気持ちはないという意味と判断したため、今後一切連絡はしない、蘭のことはただの幼馴染としてこれから付き合っていくと告げた。
蘭は電話越しで怒っていたが、そんな状況に自分がしたのだと気づいてはいなかった。
それに、すでに哀への気持ちを自覚してしまった以上蘭に気を持たせるの蘭に悪いだろうとコナンは怒って言葉を吐いている蘭の電話を一方的に切り、その携帯は解約したのだった。
そして、コナンは江戸川コナンとしての携帯だけを持ち、蘭に別れを告げたことを哀に告げるため、探偵事務所を晴れやかな顔で出ていった。彼女に本当の意味で「好きだ」と伝えるために……。
++あとがきと書いて反省文と読みます++
蘭厳しめ作というか、コ哀+蘭失恋をくっつけてみた短編作になりました。
マイピク移行前から蘭厳しめ作の風当たりが厳しくなってきており、
少し作品執筆のモチベーションが下がっていたため、
リハビリ作として書いてみました。
自分としてはあまり出来が良いとは言えない作品なんですが。
読んでいただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。