組織壊滅作戦が無事成功し、コナンから元の体に戻った新一は、一年ぶりの学校に顔を出そうと登校する、
出席日数が足りず、補習を受けても無理そうなので、そのまま高校を中退し、赤井と両親の勧めで、アメリカの大学に進学を飛び級で決め、そのことを学校に報告に来ていた。
ちょうど文化祭の日で、校内は盛り上がっていたため、自分が校内に入ってもあまり気づかれることはなかった。
そう、隣に宮野志保とという相棒であり恋人をとなり連れていても騒がれることがないほどに、というか、以前のように新聞やテレビに出なくなったためか以前のように周囲にもてはやされることは少なくなっていた。
校内を歩きながら新一は久々の、志保は初めての帝丹高校の学園祭を見物していた。
「どうだ、日本の学祭って初めてだろ?」
「そうね、まぁ、そもそも日本と海外だと学校のスタンスが違うもの、あっちには学園祭はないし」
「確かになぁ」
「クラス展示によるの?」
「あぁ、蘭からメール来てたし、一応帰ったことは報告しとかねぇとな」
「本当にいいの?私もいて」
「あぁ?俺はロンドンでの告白の返事がない時点でとっくに蘭への気持ちは冷めてるよ、志保のことは俺が守ってやっから安心しろ、あいつには手も足も出させねぇよ」
「でも……」
「志保、今俺が愛してるのはお前だ、それは、この指輪に誓う」
そう言って左手の薬指にはめられているのは、ムーンストーンとインカローズの石がはめ込まれた特注の指輪だ。
「新一……そうね、私はあなただけあなたの心と言葉だけ信じればいいのよね」
「たとえ蘭がなんて言ってこようが、な」
そう言われ、ホッとしたような視線と笑みを浮かべ、新一の腕に自分の腕を絡ませる。
「お、おい、いいのか?」
「嫌かしら?」
「ふっ……いーや、むしろ、もっと積極的でも俺は嬉しい」
「ふたりっきりになったらね」
周りの目を気にする必要はないと吹っ切れたのか、そんな志保の姿に新一は終始ご満悦だった。
自分に対してであった当初辛辣だった彼女の態度からは想像もつかないほど柔らかく優しげな笑みを浮かべそれを自分に向ける志保の姿はたまらなく愛しく加護欲を掻き立てられる。
二人が付き合い始めたきっかけは、組織壊滅後、構成員たちは全て捉えられ、組織のボスだった人物は死亡が確認され、
ジンやウォッカ、キャンティ、コルンなども死亡、残党も捉えることができたため、志保を脅かすものは何もないその安堵の感情からか彼女はに日に日に女性らしい笑みを浮かべるようになり、
感情も表に出していくようになってからというもの、新一は宮野志保という女性に、
相棒以上に愛しい感情が止められないと新一が気づいたからだった、ロンドンの告白の返事がなかったことで蘭への気持ちは既に冷め切っていた。
それに、出会った当初から志保は新一にとって珍しい女性だった。
好意を寄せられることが多かった新一に対し、志保は終始冷静に新一という人間、探偵を冷静に見つめ、
時には感情に流されそうになる場面でのストッパーになったり、自分の手助けをしたりしてくれた。ただそばにいて、
探偵としての自分を見て批難していた蘭と違い、文字通り“相棒”として自分の右腕のように自分の思考感情を読み取ってくれる女性だった。
自分がホームズなら彼女はワトソンであり、アイリーンでもある。こんな女性に二度と会えるわけがない、
失ったらもしかしたら自分は探偵として欠落してしまうかもしれない、そう思えるほど、志保の存在は唯一無二の存在になっていた。
そう、ロミオとジュリエットのロミオはジュリエットに出会う前恋人のいる別の女性に恋焦がれていた。その人以上の女性など存在しないと、
友人にほかに目を向けろと言われてもその心が動かなかったロミオだったが、ジュリエットに出会って運命を感じるのだ、
間違っても人を愛しすぎて失って死にたくなるなどと考えたくもないが、志保と出会う前と出会ったあとでは人を愛するという定義が根底から覆された。
志保を失いたくない、ほかの誰かに取られたくないと思うのだ。
蘭には幸せになって欲しいと思う、笑っていて欲しいと、だが志保は誰かに幸せにさせるのを託したくない、
幸せにするなら自分がしたいのだ。ここまで愛するという感情に差別があるのかと思えるくらい、蘭を好きだった感情と、志保を愛する感情は新一の中で別格といっていいほどの違いがあった。
蘭のクラス展示は二年のときに起きた殺人事件で、途中で終わってしまった舞台『シャッフル・ロマンス』を上演することになった。
ハート姫は蘭が、スペードは世良が演じるとメールが来ていた。上演後に新一は舞台袖に顔を出した、
「よ、元気してっか?みんな」
「おま、工藤!?」
「おう、ひさしぶり、やっと事件捜査が終わってよ、でも出席日数足りなくてよ、俺、今日で退学届けだしたんだよ、
事件で知り合った人にアメリカの大学への飛び級を勧められてさ、今年それを受けてアメリカの大学に入ろうと思ってんだ、だから、
もしかしたら日本にいられるのはあと数日かもしれねぇから心配かけた奴らに挨拶だけはしとかないとと思ってさ」
「マジかよ!」
「てか、毛利と鈴木は!?」
「あ、いた!蘭!園子!工藤君がいるわよ!」
呼ばれて、やってきたのは、カーテンコールを終えた蘭と演出を務めた園子だ。
「新一?」
「?おう、ひさしぶり、蘭、元気そうだな」
「元気そうだなって!帰ってくるなら連絡ぐらいしなさいよ!バカァ!!」
思わず駆け寄り、涙を浮かべる蘭、以前なら申し訳ないと思うと同時に可愛いとも思ったりもしたが、今は一切そんな感情は浮かんでこない、幼馴染として心配させて悪かったと思うだけだ。
「悪かったよ、事件で壊滅させた組織の残党が捉えきるまで戻ってこれなかったんだ、こいつが自由に外に出られるまで俺がそばにいてやんねぇと心配でよ」
そう言って隣にいる志保の腰を抱き寄せる新一、人に意識的に注目されるのはあまり好きではない志保は、新一の手を抓る。
「いってぇ」
「恥ずかしいから人前ではやめて」
「わりぃ、わりぃ」
「ちょっと!新一くんその女誰なのよ!あんた、蘭と付き合ってるんでしょ!?」
突然現れた目の前の女性に、掴みかかりそうな勢いで詰め寄る園子。
「?蘭とは付き合ってねぇよ、告白の返事半年経っても返ってこねぇから、俺、蘭のことはもう恋愛感情はなくなったんだ、振られたと思ったからさ」
「えっ!?ちょっと蘭!返事をしてないってどういうことなの!?」
「え、わ、私は新一が帰ってきてからしようって思ってただけで、振ったつもりはないわ」
「その割には、新一に対して、昼夜問わず電話して、文句を言っていただけって聞いたけど」
「おい、志保」
「私は、あなたのことを誰よりも大切に思っていた新一の気持ちを踏みにじった時点であなたに負けないっておもったわ!あんなふうに新一を傷つけるなら私は彼をあなた以上に愛することができるって、探偵の相棒としても恋人としてもね」
「いきなりでてきてなんなのよ!あなたに私たちの何がわかるって言うの!?」
「なにもわからない、でも、あなただって私たちがどうして愛し合うようになったかなんて知らないでしょ」
「あ、愛し合うって……」
「私は、新一が私の唯一の肉親が死んだ事件に関わってると聞いて、彼に助けを求めた、そして彼と一緒に同じ組織を追って、同じ時間を過ごしてきた、
最初は姉を救えなかった人を好きになるなんて思いもしなかった……でも、彼が誰より一番救えなかった人たちのことを悔やんで、
それでも周りの人のために自分に命を削る姿を見て彼の力になりたい、私も彼と一緒に戦っていきたいって思うようになった、
いつの日かそれが……新一を好きという気持ちになっていたわ、蘭さんあなたを想う新一を私は好きになった、だから私は許せなかったわ……あなたが、あなたが新一の告白をずっと蔑ろにしてきたことが」
「私は……ないがしろにしてきたつもりなんて」
「じゃあなんで!なんで彼に好きの一言を言ってあげなかったのよ!私は最初、あなたたちの恋を応援してた、
あんなに彼に思われてるあなたが羨ましくて仕方なかった、でも、どんな時でもあなたのことを最優先に考えていた彼の心を踏みにじったのはあなたよ、
そんな日々を横で見ていた私は思った、彼に思われていながら大切にされていながら、あなたは彼に対して文句ばかり、
それなのにあなたは一度として彼に好きという言葉を言わないどころか否定し続けた、だからあなたから彼を奪ったの!恨むなら彼じゃなく私を恨みなさい」
「おい、志保、なにいってんだよ、俺はな、蘭のこと告白の返事がなかったから気持ちが冷めたと思ってるかもしれねけどな、
俺は、俺と一緒に俺と同じ思考で考えて、時には俺の代わりに動いてくれる相棒をほかの誰にも取られたくなかっただけなんだよ、
そして、志保いつの間にか蘭のことより志保のことのほうが俺にとっては大切な存在になってたんだよ、だから、恨むなら俺にしてくれ、志保は悪くねぇ」
「なによ、二人してかばい合って!ねぇ、私の気持ちはどうなるの!?新一のことずっと待ってた私はどうなるのよ!」
「待っててくれたのは感謝してる、でも……待っててくれたのは蘭だけじゃない、父さんも母さんも、服部やほかのクラスのやつらだって俺の帰りを心配して待っててくれたはずだろ、お前だけじゃない」
「私は新一が……新一が好きだから待ってたのよ!帰ってきた新一に返事して、新一と付き合えるってそれを楽しみにして待ってたのになんでなのよ!」
「だったら、だったらなんで!なんで俺の告白にすぐ応えてくれなかったんだ!俺は……お前から一言好きと言ってもらえるだけでよかった、
俺の気持ちにすぐに応えてくれなかったお前のことを、好きでい続けることなんて俺にはできねぇんだよ!お前はいいよな、
告白されてもうお前を好きなのを知ってるんだからよ、だったら俺はお前にとって何なんだよ、都合のいい時だけ電話よこして助けてって叫んで、
好きの言葉一つ言わない女を、好かれてるって思えない相手を好きでい続けるなんてできるわけねぇ、俺はそんなに人間ができてねぇんだ!
だから、ずっとお前が好きだった、だからお前のその態度に失望した、事件で姿隠す前はお前にヤキモチ焼いて欲しくて、
ガキみたいにラブレター見せびらかせて、お前が俺に焼いてくれればいいと思ってた、けどよ、あの時も今までも俺はお前が俺を好きって感情は一切見えなかった、
俺は……好きでいることに疲れた、だから俺は俺のそばで支えてくれて俺の気持ちに向き合ってくれる相手を選んだ、それが悪いって言うなら、今すぐ俺を殴ればいいだろうが!いつもみたいに!」
「新一くん……」
「……蘭さん、新一はね、ずっと苦しんでた、あなたが告白されて浮かれていたとき返事がなかなかもらえなくて、
会えなくて寂しいと泣くあなたから好きの一言すらもらえないのに、彼は命懸けでいつもあなたをあなたの見えないところで守ってた、
ねぇ、あなたは命懸けで愛されていたのに、その彼の愛に応えていないのよ、なのにどうして彼の愛がずっとあなたに向いているなんて思い上がれるの!
新一、もうこれ以上はあなたの精神衛生上良くないわ、帰りましょ」
。
「志保……そうだな、蘭、もうこれっきり会うこともないだろうけどよ、お前が次に好きになる男にはちゃんと言葉と気持ちを返してやれよ……じゃあな」
「新一、まってよ!もう一度ちゃんと話をさせて!」
「もう一度もなにもお前は一度も俺に、男として向き合ってくれたこと無かったろ?」
そう言って、志保を連れて去っていく新一を蘭はただ見ていることしかできなかった。
そして、蘭はそのあとの新一の活躍をただただメディアや新聞でしか知ることがなくなってしまう。平成に生まれた世界の探偵、工藤新一の傍らには、彼を支える最高の相棒であり妻である志保が寄り添っていた。
++あとがきと書いて反省文と読みます++
多分組織壊滅しても、新一は無意識に、志保さんを頼ると思うんです。
少なくとも、いや絶対に蘭や小五郎には頼らないと思います。
赤井さん、降谷さんも、頼るとは思いますが、でも圧倒的志保さんが多いはず。
どう見たって探偵の相棒としても妻としても志保さんの方が釣り合っている。
蘭の恋に恋した乙女恋愛脳に活を入れてみたくて書いてみましたが、
結局原作の工藤新一の復活をちょっと新志色強くしてみただけでした。
なんかもう、最近新志妄想が止まらなくて仕方ない結城です。
蘭ちゃんファンの方には申し訳なく思います